フラフラミッドナイト
調子の悪いときほど、外に飛び出したくなる。10年前は躊躇なく出ていっては心配されてた夜中の散歩、今はこんなにも治安のいい近所さえ出るのが億劫だ。体が重い。それなのに、うずうずした気持ちだけ、腹痛腰痛を飛び越えて芽生えるので、自分の中のみのフラストレーションに揺られている。
こういう時は、黒い水に浸かっていく夢を見る。恐怖も苦痛もないが、静かな緊張感だけが続いていく。生温い感覚は血を思ったり、墨を思ったり、溺れて慌てる様子もなければ、喜んで遊泳している視点もない。ただざっくりと“水”に関する夢を見る。現実の体調の悪さから来る冷や汗のせいかもしれないけれど。
むかーし学生の頃に、夜中の散歩が趣味と言っていた男の子をふと思い出した。緑がかった銀髪で細身で鋭い目をしていた。周辺の女子に恐らくモテていたが私はそっち方面に興味がなく、ただ、護身用に持ち歩いているというナイフがバレて銃刀法違反で捕まらないようにね...と遠目で見ていた。彼には夜が似合うなぁと思っていた。昼間の授業は似合わないなぁと思っていたが、授業は真面目に受けてるようだった。(もっとも履修時期が私とはズレていて状況を知り得る間柄では全然なかったのだが。)今頃何をしているんだろうね。若さ故のイザコザに巻き込まれてイラついてる場面も見受けられたが、そんな過去を笑って語る大人にでもなっているのだろうか。
私は二十歳の時に一度だけ補導されかけたのだが、それも夜中の散歩の時だった。中学生だと勘違いされるような見た目の友達&自分だったので、声を掛けられたが堂々と成人でーす!と言い放って、そのまま短い花見をした。(ちゃんと納得いただいたよ。暗いから気をつけなさいよーと言われた。)夜中の空気が好きだった。夜の桜も好きだった。家に帰りたくない時、眠れる気がしない時、こんなにおうち大好きな人間なのに、唐突な外出を選んだ。ちなみに、昼間はあまりその衝動アリマセン。断然出かけるの億劫デス。
方向音痴だから、フラ~っとうろつくのやめなさいよ...と自分で思うこともあったけど、突然湧き上がる感情だったんだよね。今は身体本体に対して不都合が多くて、気分通りにフラフラすることはないけれど、思うのは思う。私は完全なインドア派で、規模が違いすぎるって言われるかもしれないけど、アクティブな人が急にどこか旅へ出たくなる気持ちと少し似ている気がする。(私には旅に出るほどの行動力はないから。怠惰だし。でも瞬間、飛び出したくなる感じ。ぴゅーんと。)それで何かが明確に変わる体験をしたわけではない。気が晴れたとか、よく眠れたとか、実感があったか?覚えていない。ただ、うずうずを実現して終わり。今より軽々しく行動できた昔の自分、今より元気そうで、それはそれでなんかよかったなぁ。